第90回 クラシエ「いち髪 瞬密CM」の徹底検証
2009年9月5日から放映が始まった、クラシエの「いち髪」のCM。
周辺の人々が中央の女性に向かって「落ちて」いるが、どれほど凄い現象なのだろうか。
筆者は、ピアノを弾いていた男性に注目してみた。
男性は、引力(?)を受けて飛んでいった。画面上で測定すると、男性はおよそ2mの距離を0.52秒で通過した。
このとき平均速度は 3.8 m/s となる。
しかし、ピアノを弾いているときに男性は静止していたので、最高速度は 7.7 m/s となる。
次に、大写しになった場面に注目すると、ピアノは画面右奥にある。中央の女性とピアノは5mほど離れている。
つまり、ピアノを弾いている男性は、中央の女性に向かって加速し、ピアノを離れてから0.822秒で衝突する。
衝突寸前は 12.2 m/s まで加速される!! 加速度は、地球の重力加速度を超える 14.8 m/s2 !!
一方、人体の体積の平均は、7×10-2 m3 とされる。球の体積の公式から相乗平均を取ると、0.548 m。
これを万有引力の公式・等加速度運動の公式 (※1) に当てはめると、この中央の女性の体重は、
げげっ!! まさかの 5.01×1010 kg !? (= 5010万トン)
これはとんでもない数字が出た。
密度を求めると、7.16×1011 kg/m3 。太陽の中心核の密度を軽く超える。
流石に、ブラックホール化するほど密度が高いわけではない。
とはいえ、ゴジラ(2万5千トン)よりも、ピラミッド(600万トン)よりも体重が重いのだ。こいつ、どこから来た宇宙人だ!?
まさか「瞬密」って、「瞬間的に密度が増大する」ってことじゃないよな(笑)
それにしても、瞬間的に質量を増大させ、密度を増大させるのは、質量保存則に反している。
しかし、このような現象を起こすには、エネルギーを質量に変えればよい。
4.5×1027 J ほどのエネルギーを質量に変えれば、体重がいきなり 5.01×1010 kgになることは、理論上可能である。
しかし、これほどのエネルギー。世界の化石燃料の埋蔵量分をすべて使っても、その1万分の1にしかならない。
凄い! 凄すぎる! これは空想科学史に残る大技(!?)だったのだ。
たった15秒のCMに、これほど凄い空想科学があったなんて。人間の想像力って、すごいんだなぁ。
いや、ちょっと待て。周囲の人々が引き寄せられるという現象は、ほんの序章にすぎない。
この引力で生じる潮汐力に、建物が耐えられまい。あっという間に倒壊するだろう。
地面も当然この重さには耐えられず、陥没して埋まる...
これは、もしかすると、新たな怪獣の出現か!? いずれにせよ、地球に対する脅威であるのは間違いない。
より厳密には...
筆者は、もっと精密に答えを求めることができる式を某所で知った。
重力は距離の2乗に反比例するから、距離が近づくに従って加速度も大きくなる。だから、厳密に言えば「等加速度運動」ではない。このことを考慮した式を使って、質量を求めると....
うわぁぁっ!! まさかの 8.55 × 1012 kg !!?? (=85.5億トン)
予想を遙かに凌駕する数字が出た。というよりも、距離が近づくに従って加速度も大きくなることを考慮しないと、数値が2桁も狂ってしまうのには驚いた。
密度を求めると、1.22×1014 kg/m3 。これは、やばい。
参考に静止エネルギーを求めると、7.68×1029 J 。
これは、本当に凄かった。たった15秒のCMの中に、空想科学史に名を残すような大技があっただけではなかった。
この問題は、通常の力学の公式では解けないのだ。わざわざ、非線形微分方程式を使わなければならないほど、難しい。
注意一秒怪我一生。宣伝十五秒力学一生。
[注] 5m離れた場所で50kgの人に働く潮汐力は1675N