第98回 「エルコスの祈り」の謎 - なぜエルコスは汚染燃料で気化するのか
劇団四季のミュージカルに「エルコスの祈り」というものがある。
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舞台は、約50年後の世界。そこには、問題児や落ちこぼれたちに対して再教育を行う「ユートピア学園」があった。
「ユートピア学園」は非常に規律を重んじ、生徒を番号で呼んでいる。また、夢や希望などは無意味であり、そういったものを排除している。
学園にいる生徒のジョン、ポール、ジョージ、ローズやエマたちは、そうした指導方針に不満を持つが、否応なしに従っていた。 |
筆者はこれを小6の頃に道徳の授業の一環(?)として見たことがある。
作中では、FZIがウォッカで汚染されたためにエルコスが気化してしまった。
当時はあまり気にしていなかったのだが、最近ふと疑問がわいてきたのだ。
なぜ燃料が汚れていると、エルコスは気化するのだろうか?
その疑問を解決するに当たっては、
そもそもFZIってなに?
という疑問を解決する必要がある。
作中では、FZIは「バイオエネルギー燃料」らしい。
現実世界で研究されているバイオ燃料には「DMF」などがあるが、これはフランの誘導体の「ジメチルフラン」の略。
FZIも同様に、「頭文字がIで始まる化合物の誘導体」だろうか。
Iがつく化合物といえば、 ..... 「エイコサン(Icosane)」か!?
それにしても、FZがどうしても分からない。
ああ、まったく分からんぞ、FZI。
名前は気にせず、性質だけを考えよう。
バイオ燃料である以上、FZIは炭素と水素と酸素でできた化合物であることは間違いないだろう。
ウォッカによる汚染がエルコスの蒸発を引き起こしたならば、原因は2通り考えられる。
1. ウォッカが原因で蒸発した
2. FZIとウォッカの反応物が原因で蒸発した
まず、1のウォッカ原因説を検証しよう。
ウォッカが原因で蒸発したならば、原因物質は明らかにエタノールである。
エタノールが原因で蒸発するならば、やはり2通りのパターンがあり得る。
a. エルコスはエタノールに可溶性の物質でできている
b. エタノールが爆発的に燃焼してエルコスが気化するほどの高温になった
しかし、FZIに混ぜられたウォッカはごく少量である。これだけ少量のエタノールにエルコスが完全に溶け、さらに蒸発までするのは、溶解度的に不可能である。もちろん、燃焼だけでエルコスを気化させるにしても、やはりウォッカが少なすぎる。
すると、やはり原因はFZIとウォッカの反応で生じた物質なのか?
いや、待て待て。
作中では、「FZIを汚染するだけで…」と言っていたのであり、別にウォッカに限定しているわけではない。
というならば、ここから導き出される科学的真実はただ一つ。
FZI以外のほとんど全ての物質は、FZIに対して触媒として働く
FZIは、非常に不安定な化合物だったのだ。そのため、あらゆる物質が、FZIを変性させる触媒になり得る。
つまり、エルコスを蒸発させた原因は「FZIが変性して生じた化合物」である。
このことから、FZIとその変性物の性質が見えてきた。
『FZIは、莫大な化学エネルギーを保持しているが、非常に穏やかに、かつ長時間燃焼してゆっくりとエネルギーを放出するためロボットの燃料に向いている。
しかし、様々な物質がFZIを変性させる触媒となる。一度変性してしまうと、FZIは莫大な化学エネルギーを短時間に爆発的にエネルギーを放出する物質に変化してしまう。』
このように、短時間で大量のエネルギーが変性物から放出され、温度が急激に上昇したため、エルコスは蒸発してしまった、と考えられる。
FZIは諸刃の剣である。ぜひ、ストーン博士には、簡単に変性しない燃料を作ってもらいたいものだ。
※試しにエネルギーを計算してみた。
エルコスは体格的には人間とほとんど変わらないので、燃料タンクも500mL程度だろう。
ガソリンの燃焼エネルギーは1kgあたり 4.2×107 J 程度であり、1Lあたりなら 3.3×107 J 程度である。
女性の1日の摂取熱量の推奨値は 6.3×106 J であり、10日分ならその10倍である。
すると、FZIはガソリンと同体積で4倍の化学エネルギーを持っている計算になる。