第119回　Rootsの凄すぎるCM

JTの缶コーヒー「Roots アロマインパクトシリーズ」のCMで、科学魂を揺さぶられる場面を見た。
玉山鉄二出演の「スペシャルな男篇」である。

ホームページによると、玉山鉄二演じる豪腕ピッチャー「ヒカル」がRootsを飲んで投げた直球の球速は 710 km/s に達するという。

作中でのヒカルの直球はキャッチャーミットを直撃し、キャッチャーと審判の2人もろとも弾き飛ばし、2人は地球を一周して再びもといた球場に戻ってきた。

弾き飛ばされた2人が地球を一周するために出ている必要がある速度は、第一宇宙速度(7.9 km/s)である。
これはヒカルの球速の100分の1である。

しかし、実際には野球ボールと人では質量が違う。
野球ボールの質量は、141.7-148.8 g と定められている。ここではその中央付近の 145 g と仮定する。
キャッチャーと審判の合計体重については分からないが、ここではキリよく野球ボールの質量の1000倍の 145 kg と仮定する。

ヒカルの投げた球が、キャッチャーと審判(合計 145 kg)が 7.9 km/s で地球を一周するために必要な運動エネルギーを持っていれば、CM中のような運動が可能となる。

キャッチャーと審判の合計質量(145 kg)をM、地球一周の速度(7.9×10³ m/s)をV、野球ボールの質量(0.145 kg)をm、ボールに必要な速度をvとすると、エネルギー保存則より、

であるから、vについてとくと、

上記の条件 M=145 (kg), m=0.145 (kg), V=7.9×10³ (m/s) を代入すると、

v=2.5×10⁵ m/s = 250 km/s

という結論が出た。つまり、ヒカルは最大の力を出して 710 km/s の球を投げなくても、このような現象を起こせるのである。

しかし、それはエネルギーが100％伝わればの話である。
実際には、運動エネルギーは空気抵抗で減少するし、ものをぶつけるという操作では音や熱に変わるエネルギーが無視できない。
従って、必要な速度は 250 km/s よりももっと速い可能性が高い。

つまり、ヒカルの 710 km/s という球速は、あまりにも科学的に正しい数値と言わざるを得ない。

それにしても、710 km/s とは、東京で投げれば0.7秒で大阪に届いてしまうような速度である。
ヒカルの腕力は凄すぎる。
しかし、キャッチャーと審判が食らった運動エネルギーは 3.7×10¹³ J であり、これは広島型原爆のエネルギーの半分である。
そんな球の直撃を食らっても生きていたキャッチャーと審判の生命力の強さは驚異的としか表現しようがないだろう。

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