第46回　超能力と論理学

ネットを検索していると、こんな論文を見つけた。

ここには、こんな記述があった。(引用)

(サイトより引用1)
時計を止めずに、時計に触ることが可能である。
　いかがだろうか。この命題が正しいことは明白だろう。
　さて、この命題が正しいことがわかったら、次はこの命題の対偶を考えるのだ。ある命題が正しければ、その対偶命題も正しい。これはご存じのとおり、論理学の初歩である。
時計に触らずに、時計を動き出させることが可能である。

待てよ。

「時計を止めずに、時計に触ることが可能である」…①
確かにこの命題は真である。しかし、これの対偶は、

「時計に触らずに、時計を動いたままにしておくことが可能である」…②
である。

※「時計に触ることが不可能ならば、時計は止まらない」 でもよい。

①で、時計を触る前は時計は動いていたはずだ。もちろん、触った後も動き続けるはずだ。

「動いている」(止まらない)ということと、「動き出す」ということは違う。

そして、最後にはこんな記述もあった。

そしてもし、触っただけで時計が止まってしまったのなら。それはすなわち、あなたが超能力者だ、ということである。

これだけでは、超能力があることの証拠にはならない。
これは、超能力が存在することの必要条件であり、この命題が真であったとしても、超能力があることにはならない。(後件肯定の詭弁)

逆は必ずしも真ならず、って言うのは、それこそ常識である。

「それ、電池が切れただけなのでは?」とか「電源を切るスイッチに『触った』のでは?」といわれたら返答できないだろう。

つまり、いいたいことは、必要条件を示しただけでは証明にならないということだ。

そして、まだまだ問題がある。

(サイトより引用3)
超能力などというものは存在しない。なぜなら、存在するならそれは超能力ではなく、ただの能力だからだ。
　これで何かを証明したつもりになっているのだから恐れ入る。単なる言葉の遊びに過ぎないし、そんな論理が成立するわけがない。たとえば、こんな例を考えてみてほしい。
　超伝導などというものは存在しない。なぜなら、存在するならそれは超伝導ではなく、ただの伝導だからだ。
　超新星などというものは存在しない。なぜなら、存在するならそれは超新星ではなく、ただの新星だからだ。
　超特急などというものは存在しない。なぜなら、存在するならそれは超特急ではなく、ただの特急だからだ。
　超合金などというものは存在しない。なぜなら、存在するならそれは超合金ではなく、ただの合金だからだ。
　超党派などというものは存在しない。なぜなら、存在するならそれは超党派ではなく、ただの党派だからだ。
　超法規的措置などというものは存在しない。なぜなら、存在するならそれは超法規的措置ではなく、ただの法規的措置だからだ。
　超人バロム１などというものは存在しない。なぜなら、存在するならそれは超人バロム１ではなく、ただの人バロム１だからだ。
　これらが間違っていることはすぐわかるだろう。なぜなら、超伝導も超新星も超特急も超合金も超党派も超法規的措置も超人バロム１も、確かに存在するからだ。

この文章にも大きな問題がたくさんあるのだ。特に最後の文章。

これは早まった一般化である。
超伝導、超新星、超特急、… が存在することは間違いない。
しかし、それは超能力が存在することの証拠ではない。
ある命題を満たす例がどんなにたくさんあっても、一つでも反例があればその命題は偽である。

他にも問題がある。まずは、超伝導、超新星、超特急、… の定義を考えよう。(一部はWikipediaから引用)

のように、「超」がついているものは、ついていないものよりも大きく意味が変わっていることがわかる。
また、これらはいずれも科学的に存在しうる。

そもそも超特急という種別の電車は日本には存在しない。

そもそも超能力とは何か定義せずに議論する限り、詭弁である。

しかも、この文章の作者はこんなことまで書いている。

(サイトより引用4)
超能力者としてテレビなどに出ているあの男、実際は超能力など持っていない。すべては単なるトリックであり、下手な手品に過ぎないのだ。その手口はこうこうである。これで、あの男が超能力者でないことが証明された。つまり、超能力者を標榜する奴らはすべてインチキなのである。
　これで何かを証明したつもりになっているのだから恐れ入る。一人の自称超能力者がインチキだということを証明したところで、超能力者全員がインチキだという証明にはならない。論理学の初歩から勉強し直した方がいいのではないか。

あ～あ、これこそ自己矛盾である。引用文章4では早まった一般化が間違いであることを主張している。にもかかわらず、引用文章3では堂々と早まった一般化がある。あなたこそ、論理学の初歩から勉強し直した方がいいのではないだろうか。

前回も書いたように、一部については超能力の不可能が証明できるものもあるし、「超能力などというものは存在しない。なぜなら、存在するならそれは超能力ではなく、ただの能力だからだ。」という論法が通じるものだってある。

むしろ、超能力が存在するならばそれはもはや自然科学の現象にすぎない。
超能力の存在を証明しようとすることこそ、真の超能力否定方法なのである。

もし超能力があると主張したいなら、それを学会か何かで発表してノーベル賞でもとればいい。もしできるならば、の話だが。

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